つい先日、2024年プリツカー賞を受賞された山本理顕(やまもとりけん)さんによる、熊本県営保田窪第一団地(くまもとけんえいほだくぼだいいちだんち)に行ってきました。行ってきたと言っても、本当にただフラッと立ち寄っただけなので噂の中庭には入れず、外から眺めただけですが。つまりプロジェクトの一番重要なポイントを見逃しているわけですが、それでもなおみるものをワクワクさせる(住んでみたいと思わせる)、蠱惑的な集合住宅でした。こんな“団地”が30年以上前に建てられたとは。。。 世の中にはまだ、住んでみたい住宅だらけです。
山本理顕(やまもとりけん)さんについて
山本理顕さんは、1945年生まれの建築家。上述のプリツカー賞は、建築界のノーベル賞とも称されるとてつもない賞。偉業です。そのほか、日本建築学会賞や日本芸術院賞など、そうそうたる受賞歴をもつ日本を代表する建築家の一人です。プリツカー賞受賞にあたり評価されたポイントが“コミュニティーの創出”だといいますが、それは今回眺めてきた熊本県営保田窪第一団地でも、しっかりと試みられていました(みてないけど)。
熊本県営保田窪第一団地とは
そして今回訪れたのが、熊本県営保田窪第一団地。
熊本県営保田窪第一団地は、くまもとアートポリス集合住宅プロジェクトにおける、完成第1号。「共に住む」ことを都市の中で“よく”実現するための試みとして、1991年8月に総工事費約13.5億円で竣工。熊本市の中心街からは車で約15分くらいというロケーションです。
くまもとアートポリスとは
熊本県下を舞台に豊かな自然や歴史、風土を生かしながら、後世に残り得る文化的資産としての優れた建造物を造ります。人々の都市文化、建築文化などへの関心を高め、地域の活性化に資する熊本独自の豊かな生活空間を創造します。
- 引用元 くまもとアートポリスとは -
くまもとアートポリス、とても刺激的なプロジェクト。プロジェクトオーナーは熊本県ですが、アートポリスを円滑に実施するために選定されたアートコミッショナーは、これまた日本を代表する建築家である伊東豊雄さんが務められています。
熊本県営保田窪第一団地以外のくまもとアートポリスのプロジェクトも、錚々たる建築家たちが手がけています。
- 八代市立博物館・未来の森ミュージアム :伊東豊雄
- 熊本北警察署(現 熊本中央警察署) :篠原一男+太宏設計事務所
- 県道橋景観整備(基礎調査) :倉俣四郎+高木冨士川計画事務所
- 熊本市営託麻団地 :坂本一成+長谷川逸子+松永安光
- 牛深ハイヤ大橋 :レンゾ・ピアノ+ピーター・ライス+岡部憲明
- 熊本県立装飾古墳館 :安藤忠雄
- 球磨工業高校伝統建築コース加工組立室棟 :象設計集団
- ほか
また、熊本アートポリスには、その思いに共感した民間も参画しています。民間プロジェクトの第一号は、妹島和世さんが設計したあの再春館レディース・レジデンス! すごい取り組みです、くまもとアートポリス。
そして現在も取り組みは継続しており、プロジェクト数は累計120まで到達しています。
くまもとアートポリスのプロジェクトが網羅されたガイドマップは、こちらからダウンロードすることができます。
建物の周囲をうろうろ...
竣工後、30年を超えている保田窪第一団地。コンクリートブロックとスチール、そしてところどころの曲線的なデザインが特徴的です。GAZEBOやロトンダと言った、当時の山本理顕産の建築物と相通じる雰囲気を持っています。
全110戸の集合住宅ですが、この建物の大きな特徴は、間取りと居住者専用の中庭です。どちらも私のような物見遊山の一般人は覗き見きず。なにも準備せず現地に来ておいてなんですが、たいへん悔しいです。。。
間取りは、熊本県営住宅管理センターのWEBサイトで一部みることができます。居室やサニタリーとDK(ダイニングキッチン)が、テラスとブリッジを介して完全に分離しています。住吉の長屋さながらに、一度外にでないとそれぞれを行き来できないというハードコアな仕様です。ブリッジには、一応屋根はついていますが、雨風は吹き込むまごうことなき"屋外"です。
この間取りを事前に把握した上で集まる居住者、どのような集団になるのかとても興味があります。
そして第二の特徴が、中庭。
中庭は、山本理顕さんの公式WEBサイトでかいまみることができます。そこに記載があるように、①住戸内を通過 ②集会場を通過、の2経路しか中庭にたどり着くすべはありません。周囲をうろうろしてみましたが、まったく覗き見などできようもない鉄壁の中庭でした。この住民だけに閉ざされた中庭、建築家が言うところのコモンスペースが、“コミュニティーの創出”を得意とする建築家・山本理顕さんの真骨頂というところでしょうか。
この二つの特徴をはじめ、竣工当時さまざまな批判を呼び起こしたといいます。
一般的に認知されている快適な生活、快適な間取り、あるべき公営団地の姿と、熊本県営保田窪第一団地があまりにも異なっていたからということのようです。
熊本県営保田窪第一団地が、くまもとアートポリスのコンセプトにどれだけ忠実だったかは私はわかりませんが、「後世に残り得る文化的資産としての優れた建造物を造ります。人々の都市文化、建築文化などへの関心を高め、地域の活性化に資する」ことを目的とするのであれば、部外者の見学を受け入れる仕組みがあるとよかったですね!
いつか、内部を見学できる日がくることを、願ってやみません。
すぐそばに、熊本県営帯山A団地
熊本県営保田窪第一団地のすぐそば(徒歩1分)には、おなじくくまもとアートポリスのプロジェクトである熊本県営帯山A団地があります。竣工年は1992年。保田窪第一団地の竣工後に建てられています。
設計は、新納至門(にいのしもん)さんという方。
熊本県サイトのプロジェクト紹介ページにある通り、保田窪第一団地との関連性を持ちながらも、保田窪第一団地とはまた異なるユニークな存在感があります。
おそらくその理由は、保田窪第一団地が住民に閉じた建築である一方で、この帯山A団地は地域に開いた建築であるからでしょう。
3棟ほどに分かれた建物の間には中庭があり、そこへのアプローチには壁がありません。つまり住民でなくても入ることができます。
そして帯山A団地の大きな特徴になっているのが、この住棟同時をむすぶ"スカイウォーク"と称される橋です。
スカイウォーク以外にも、低層・中層・高層、あらゆるレイヤーにあとランダムに設けられたテラスが特徴的です。肩持ちでぐっと宙空に張り出したテラスもあり、建物のユニークさを際立たせています。
高所恐怖症でなくても、下から見上げるだけでもスリリングさを感じてしまうレベルのキャンティーレバー。これを公営団地でやってしまう熊本アートポリス、やはりすごいです!
熊本県営保田窪第一団地、とても刺激的な建物でした。
くまもとアートポリスの建物をめぐる熊本旅がしたくなりました。
建築データ
名称 熊本県営保田窪第一団地
住所 熊本市帯山1丁目28
設計者 山本理顕
竣工年 1991年